その日、私はいつもどおりの生活を終えて家へ帰ろうとしていた。
いつも通り、そうだ、だけど、私は絶対に正体を悟られてはいけない。
どきどきしながら周りを見回す。
中学校を出たときにはまばらにいた同じ並中生もひとり減り、二人減り、
今では道を歩いている同じ制服を着た生徒は私だけだ。
ここまで来たら言っても大丈夫だろう、実は私は探偵だ!
しかも、浮気調査とかペット探しではなく、殺人事件とかそういう事件を解決する探偵なのだ!
学校では決して言えない私の秘密だ。
まぁ、目下の悩みは私にそぐわしい事件が起きないと言うこと、ただひとつだけ。
だから仕方がないので推理小説を読んでいざという時に衰えず脳を回転できるようにするのが今の私の任務だ。
そう思って、うきうきしながら行きのバスで栞を挟んだ小説を取り出した。
バス停まであとちょっと……だけど我慢できないんだもん。
だってだって!この小説は私が探偵になる切っ掛けになった小説だ!
ずっと続きを待っていて、私が大好き……いや、尊敬する探偵がもうすぐ鳴り物入りで登場……!
そこまで考えてぱらぱらとページをめくり本に目を落とすと、
文字を追うため落とした視点、その中にちっちゃな男の子がいた。
というか……赤ちゃん?
スーツ着てる。可愛いー!七五三かな?あれ?でも今春だし…
「ちゃおっス」
彼は右手をあげ私に挨拶した。
ちゃお?ちゃおって何語だっけ……?
まぁ、いっか。
「ハロー赤ちゃん。その格好どうしたの?ママはどこかな?」
しゃがんで尋ねると、彼はにやりと笑った。
「お前、思っていた以上に変態だな」
「へ、へんたい!?」
「にやにやしながら本を取り出してたぞ」
「嘘!?」
思わず顔を押さえる。
「だってだって、これは私のバイブルなの、聖書なの。もうすぐ探偵なの!」
「探偵」
「あ、探偵わかる!?あのね、探偵は推理をしたり捜査をしたりするんだよ!」
「知ってる」
「知ってる!?」
こんなちっちゃい子供が探偵という言葉を知っているよう、ってだけで嬉しいのに、
本当に知ってるなら嬉しくて堪らない。
というか、知ってるなんて本当に嬉しい!
ただ探偵の話をするだけでも嬉しくてにこにこしちゃうのに、困るな!
まぁ、いいか!
「それでお前……どこの組織にも入ってないよな」
「事務所ってこと?残念ながら入ってないよ」
最近の探偵事務所は推理捜査なんてしないみたいで(本当に嘆かわしいけど)
探偵である私の出番はない。
よって、残念ながら無所属ということになる。
「でもでも、事務所に入ってないからって、私の脳細胞は衰えてないよ!」
「頼もしいな」
「任せて!どんな謎も解決してみせる!」
探偵というのは職業ではないのだ、存在が探偵なのだ!
そう一人で意気込んでいると、男の子が言った。
「よし、お前、今日からボンゴレファミリーに入れ。」
「………
はい?」
さすがに、思わず聞き返してしまった。
「ファミリー?ふぁみりー…家族?」
そんなとき、私の後ろから急に声が聞こえた。
「わわわ……!リボーン!また勝手に何やってんだよ!」
最近何かと目立ち気味の沢田綱吉君。
どれくらい目立っているかというと、クラスの人気者山本君の自殺を止めたり、
バレーで活躍したり、とにかく最近急に目立つようになった元・ダメツナ君。
私は入学して時間も経ってやっと本来の能力が出てきたと推測している。
「ご、ごごご、ごめんね!うちのリボーンが……!ほら、行くぞ!!」
「ダメだ。こいつはファミリーに入れる。」
「な、なんだってー!!!!」
やけに賑やかになりました。
つっこみの才能もあるなんて(面白いとは言い難くとも)、沢田君、意外な一面です。
「ば、ばばばば、ばか!!(この子はちょっと変わってるんだぞ!)」
聞こえてます、沢田君。
全く、これだから中学生は子供だ。
探偵がどんなに素晴らしいか全く分かってない!
そして私は変わってない!
ただちょっと他の人より推理小説を読んでいてほんのちょっと起きた事件に首をつっこむだけだ!
絶対変わってなんていない!!
私が反論の一つでもしようと口を開くと、また後ろから声が聞こえた。
「おい、ツナ!なんでいきなり走り出したんだ!?」
「10代目!トラブルっすか!?」
沢田君と一緒に帰っていたらしい山本・獄寺コンビだった。
「って、あー、お前……」
「変態な女!」
「変態じゃない!」
思わず反射的に怒鳴り帰しちゃったけど、いいのかな?いいのかな?
たぶん獄寺君が転校してきて初めて交わして会話なんだけど、いいのかな?
獄寺君が不機嫌そうに顔をしかめ、まだ何か言おうと口を開き掛けたそのとき、
「まあまあ。な、それより次はお前なんだな。」
山本君のこの爽やかさにクラスはいつも助けられています、本当にありがとう。
と、今までは周りで見ていただけの私が言ってみる。
「今度遊びに巻き込まれてるの。」
「遊び……?」
何の話だか見当も付かず私は首を傾げた。
「そう。マフィアごっこだろ?」
ぽやーんと言われた言葉に私は納得した。
「あぁ、だからファミリー…」
「そうなんだよ、中々凝ってるぜ〜」
「馬鹿野郎、だから遊びじゃねぇって…!」
獄寺君が何か言うのを赤ちゃんがやってきて止めた。
「だからファミリーに入れ」
「うん、そういうことならいいよ!」
私は目線を合わせてにっこり笑う。
「あ、探偵の仕事が入ったときはダメだけど……それ以外は仲間に入れて!」
沢田君と獄寺君がびっくりして、山本君はよかったなボウズと笑った。
赤ん坊はにやりと笑った。
こうして、私は彼らの仲間になった。
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