「絶対認められません!」
獄寺がそう言って机を叩くとリボーンは聞いているのかいないのかカップを傾けて、
そしてそれからちょっと首を傾けた。
「しつけーぞ、獄寺。山本がファミリーに入る試験をしろって言ったのはお前だろうが」
「う…それを言われると、…いや、あの、今日は山本の話ではなくてですね!」
リボーンが何も言わずにいると獄寺は痺れを切らしたように言う。
「のことですよ!」
その名前が出るとリボーンはカップを置いた。
「は山本みたいな入ファミリー試験は出来ないぞ」
「そ、そりゃわかってます。でも、俺はどうしてもがファミリーに入れるのは納得いかないんです!」
「もう入ってるぞ」
「え!!」
全く同じ会話の流れに獄寺が衝撃を受ける。リボーンは表情を変えない。
山本の入ファミリー試験を決行したのが一週間前。
獄寺が今問題にしている少女をリボーンがファミリーに入れると言い出したのは、三日前。
山本の試験を終えて、それでもまだ文句のあった獄寺だが、
彼女をファミリーに入れる際には、もっと、それ以上獄寺には何かと言いたいことがあった。
「大体女が入ることなんて納得いかないです!」
「…」
「あいつ、この間の騒動の時も結局役に立たなかったじゃないですか!それに…」
獄寺の回想。
「このクラスで最低点を取ったのは…コラァ、そこ、何寝とるか!」
「……起きてます、依頼人」
「全然知性の欠片も持ちあわせてないですよ!」
「…」
「寝てるー!!」
「聞いてるぞ、しょうがねぇ、そこまで言うならにも試験をやる」
リボーンの言葉に思わず獄寺はガッツポーズをする。
「本当ですか、リボーンさん!もしダメだったらファミリーに入れなくて済むんですね!!」
「あぁ、仕方ねぇな」
その言葉に益々獄寺はわくわくと瞳を輝かせた。
「じゃ、じゃあどういう方法で試験をするんです!?」
「そうだな…」
今日は調理実習です。
「えー、このようにして、手に塩を付けてー」
「ねぇねぇ、誰にあげる?」
「私はね〜…」
先生の説明を誰も聞いていません。
それもそのはずです、我が並盛中学校では変な風習があって、
調理実習で作ったものは男子にあげなくてはいけないのです。
全く不条理だと思います。誰が始めた風習なんでしょう。
「ねぇねぇ、誰にあげる〜?」
「わ、わわ、私は誰にもあげません!」
「そうなの?」
隣の席の子に聞かれてしまいました。
そうです、あげる人なんていません。
「そういう優ちゃんは誰にあげるの?」
「え〜…どうしよう、やっぱり獄寺君かなあ」
ふーん。
その会話が聞こえたのか斜め向かいの子が会話に入ってきました。
「あんたああいうの好きなの?」
「え〜、かっこいいじゃない!!あんなに悪そうだし、勉強も出来るし!」
そういうもんですかねえ。
「そういうあんたは?」 「私?勿論山本君だよ!」
その単語を聞いて心臓が跳ね上がった。
そ、そそそ、そりゃあ…あげる子がいるだろうっていうのは予想してたけどあああ、今のなし。
…そうそう、探偵としての当然の興味。
「では、調理を開始して下さい」
先生の言葉に教室内にいた全員立ち上がって調理台に向かう。
ああ、何ともいえない気分だ…なんかもやもやする…
「おい」
私も立ち上がって調理台に向かおうとしていたらいきなり声を掛けられて、驚いて周りを見まわした。
「こっちだぞ」
声が聞こえた方を見ると足下にこの間の、沢田君と一緒にいた赤ちゃんがちょこんと立っていた。
「あれ?どうしたの??」
しゃがんで目線を会わせると、しー、と人差し指を立てて見せられた。
「極秘任務中だ」
…危ない危ない。
口をつぐんで周りを見回す。
…よし、誰も気付いてない。
「ボス、申し訳ありません」
そう謝ると彼は首を振った。
「ボスは俺じゃねぇ。ツナだ。」
「沢田君?」
意外な人選だ。
「お兄ちゃんが好きなのかな〜?」
なんか微笑ましくなって尋ねると彼は大きな目で私をじっと見た。
「違ぇぞ。オレはツナの家庭教師だ」
「???」
今度は家庭教師ごっこ?
彼はもう一度じっと私を見る。
「まぁ、今はいいぞ。じゃあ任務を伝える」
「うん」
「この調理実習で毒物混入事件が起こる」
「!!!」
思わず辺りを慎重に見渡す。
「誰とも視線を合わせるな」
静かな声で言われて私はごくりと息を飲み込んだ。
「…で、どうすればいいの?」
「その事件の犯人を突き止めろ」
!!!
き、きたきたきた!!!
私の人生に探偵っぽい台詞来た!!
なんだ、こういうことばかりならマフィアっていうのもいいかもしれない!!
「お前の観察力がどれほどのものか知りたいと言っている者がいる」
「わかった!任せて!!」
赤ちゃんはにやっと笑った。
おにぎりが出来上がって男子に配る時間がやってきた。
私の手元にはぐちゃぐちゃなおにぎりが二つ、いや、まあ、それはいいのだ。
任務、任務。
なんとはなしに沢田君を探すと、彼は…いた。
多分あの子が話を持ってきたと言うことはあの付近で事件はーー起こるのだろう。
そして、沢田君は相変わらず獄寺君と山本君とつるんでいる。
眺めていると、女の子が三人に(正確には多分二人だ)群がった。
も、もしやあの中にもう証拠が!?
慌ててそちらに向かうと、そこは人口過密で上手く動けなかった。
う…遠くから眺めていた方が良かったかも…
なんとかその輪から抜け出し、辺りを見回すとーー
「おー」
「や、ややや、山本君!!!」
ああ、なんということだろう!!
どうやらおにぎり攻撃からはうまく逃れたらしい彼が目の前にいた。
「くれんのかー?」
「わ、わわ、これは!!!」
だ、だめだ、こんな考えごとしながら手抜きで作ったおにぎりなんかあげられない!!
「沢田君、あげるよ!!」
「えええー!!な、なんで!!!!」
どうやら別の方向を見ていたらしい沢田君はとってもびっくりしています。
別の方向?んん…その先には京子ちゃんで、
って、ええええ、そのおにぎり明らかに毒入りなんですけど!!
なんか色が違うし煙も出てる!!
きょ、京子ちゃん、まさか貴方が犯人なの?
だとしても動機がない!
呆然としている私の視界の端に、
全く見たことのない女性が映る。
…え?いや、これ、あれか?あの人か?
その人は瞳を輝かせてこちらを見ている。正確には…おにぎりを。
何やらこちらで騒ぎが起こっている間に (もしかしたら誰かが毒入りおにぎりを食べて倒れたのかもしれない)
その人めがけて走る。
「!」
女の人は私に気付いて慌てて逃げようとする。
「待て!」
私は叫んであとを追う、追おうとする、しかし。
…と、
「それもよこせ!!」
えええ、さ、沢田君!?
沢田君が私の手に持っていたおにぎりを食べてしまった。
なんだ君は、食べたくないといったり奪ったり!!
そ、それどころじゃない!!
さっきの場所を見ると女性はもういなくなってしまっていた。
「に、逃がした…!!」
へなへなとその場に座り込む。おにぎりが乗っていたお皿を持って。
「…というわけで、犯人は逃しちゃったの、でも、多分あの人だと思う」
私の報告を終えて獄寺君は思いっきりガッツポーズを取った。
「よっしゃ!!!失敗ですね!!??」
…うるさいわ、獄寺君。
「大体何で獄寺君がいるの!」
ダメだ、そっとしておきたいのにこの人には突っ込み所が多すぎる!
「な、俺は十代目の右腕としてだな!!!」
こう怒鳴られかえすのが分かっているのに、言わずにはいられない。
睨み合っていると赤ちゃんが口を開いた。
「だがツナが混乱を起こしたのも事実、それに獄寺」
赤ちゃんが獄寺君を指さす。
「お前は毒がおにぎりに入っていることも気付かなかっただろうが」
「う!!」
「ふふん」
赤ちゃんに獄寺君が怒られて、ついにやにやすると獄寺君に思いっきり睨まれた。
「ということだからーー準ファミリーというのはどうだ」
「!!」
「準?」
獄寺君が驚く隣で私は、準とかあるなんて本当に本格的だ、と思う。
「そうだぞ。それなら文句はねぇだろ、獄寺。
これからの働き次第でファミリーに入れるか入れないか試験し続ければいい」
「…くっ」
んん…何かよくわからないけど。
「仲間に入れてくれるんだね〜?」
私が赤ちゃんを抱き上げて言うと赤ちゃんはにやりと笑った。
獄寺君が「てめ!」とか言ってるけど気にしない。
「おう、お前は今日から正式に準ファミリーだ。早く一人前になれよ」
「うん!これからも推理とか出来るなら仲間に入れてね。えっと…リボーンくん?」
私の言葉に獄寺君は息をのんで、そして、赤ちゃん、いや、リボーンくんは益々笑う。
「どうだ、獄寺」
「…でも、俺はまだ認めねぇっすよ」
「?」
空気はどんどん暑くなっていた。夏が来る。
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