もうすぐ体育祭です!
「え?うちの大将、沢田君がやるの!?」
昼休み、友達とご飯を食べていたら、昨日の委員会に出ていた友達が私にそんな情報をくれた。
私はご飯を飲み込んでから、沢田君の姿を探した。
彼は今屋上かどこかにご飯を食べに行っているようで、いない。
改めて見なくても、分かる。
沢田君に大将は無理だと思う、
だって大将って最後、棒倒しのてっぺんに乗るらしいじゃない?
(噂だけど!)
「てっきり京子ちゃんのお兄ちゃんがやるのかと思ってたよ!!」
「私もそう思ってたのよねえ」
私に情報をくれた女の子はおっとりしている子だからか、ミートボールを口に含んで、
三回、噛んでから不思議そうに首を傾げた。
「大体、ああいうのって強い人がやるんじゃないの?」
「そうよねぇ。」
「あ、でも、最近、沢田、活躍気味じゃない?だからだよ、きっと!」
もう一人の友達が口を挟む。
「大丈夫だよ、並中で最強とかいわれてる雲雀さんは確か参加しないはずだし」
ああ、そういえば、そんな話だった気がする。
なんだかあの人は並中の神様みたいだ。
一段高いところから公正に私たち愚民を見ている気がする。
「そうだよね!大体、沢田君も隠された本性を見せ始めてるから大丈夫だよね!」
((隠された本性…?))
私がそう言うと一緒にご飯を食べていた二人は不思議そうに頷いた。
「あ!!ボス!!!!」
お昼休みが終わって、教室移動の時間。
前を沢田君がしょんぼりと歩いていた。
私の声に気付くと振り向いた。
「元気…じゃないみたいだね」
「だから、ボスって呼ばないで…」
抗議の声もいつもより弱い。
…ど、どうしたんだろう。
「しっかりしてよ、総大将!」
そういうと沢田君は益々落ち込んでしまった。
「え、ええ、ボス、本当にどうしたの、大丈夫?」
「あのさ、学校ではボスって、ああ、もう、本当にどうしよう!!」
沢田君、ご乱心?
「大丈夫?私で良かったら何でも話聞くよ?」
覗きこむと、沢田君は目を涙でいっぱいにした。
「こ、こんなこと女の子に言えないよー!」
そして全速力で走る。
「ど、どんなこと…?」
女の子に言えないこと…
ぼ、ボス!思春期ですか!!??
私が中学生の思春期(教科書参照)に思いを馳せていると、誰かに頭をはたかれた。
「よっ!沢田、総大将になったの、武者震いするくらい興奮してるらしいなー」
「山本君!…と、獄寺君」
「てめ、明らかに態度変えんじゃねぇよ!!」
頭をはたいたのは山本君、怒鳴っているのは獄寺君です、念のため。
「ふん、でも、今はそんなことで俺は怒ったりしないぜ」
しかし、獄寺君はすぐににこにこする。上機嫌だ。
「やっと十代目のすばらしさを全校生徒に知らしめることができるぜ!!!」
うおお、と獄寺君が燃えている。
「あいつ、ツナが総大将に決まってからずっとああなんだぜー」
山本君が困ったように指さした。
面白いのなー、と山本君が笑う。
ちょ、そんなの聞こえたらまた何か言われるよ!
と思ったら獄寺君はそれどころじゃないみたいだ。
なんだかんだでいいコンビ、なのかな?
「おい、変態女!!お前も十代目のすばらしさをとくと目に焼き付けろよ!!」
「…」
思わず、むっとなったなんて秘密だ。
だから、ついつい獄寺君が嫌がることを言いたくなってしまう。
「当たり前じゃない、楽しみだなあ、ボスの活躍!」
「お、」
あ、怒った。
「俺はまだお前をファミリーって認めた訳じゃないからな!!」
むむ!
「私だってファミリーに入りたい訳じゃないもん!探偵になりたいだけだもん!!」
「なんだと!この変態女!!ファミリーに入りたくないなんて、無礼な野郎だな!」
さっきといってること矛盾してるじゃない!
獄寺君は頭が良いのになんか馬鹿だ!!
「野郎じゃないです、女です〜」
「な…!!」
しばし、睨みう。そして、同時にそっぽを向いた。
真似するな!
「お前等、仲いいのなー」
…山本君、貴方、たまに見る目が無くなるよね…。
「あああああ!!!真犯人!!!!!!!」
そんな事件が有りつつも、あっという間に体育祭当日。
今日は練習の成果を見せる日だ!
とかいって、次出る競技まで時間があったからふらふらしてたら調理実習の時の真犯人を見つけてしまった!!
ちらっと見ただけだけど、間違いない!!!
真犯人は私を見ると、ぎくっとしてからにやっと笑った。
「よくみつけたじゃない!ふふ、捕まえてご覧なさい!!」
「なにを〜!!」
体育祭の練習で鍛えた足は伊達じゃないわよ!!
でも、敵は人混みに紛れてうまく逃げてしまう。
「わわ、すみません、ちょっと通して!!」
人に謝りながらもながいソバージュを目指して追いかけると、ホシはあるビニールシートの団体に入り込んでしまう。
「逃がすまじ!!」
「わ、わわわわ!?」
って、この声…
「ハルちゃん!?」
犯人だと思って掴んだのはハルちゃんだった。
「何してんのー!!」
「あらあら、まあまあ」
! で、その横にいるのは沢田君と…お母さんかな?
「あわわ、すみません!!!」
間違えたのかな、とビニールシートを見回すと、沢田君、沢田君のお母さん、
ハルちゃん、お弁当、それにむらがるちっちゃな子供達、リボーンくん、女…
「いたーーーー!!!!!!」
私の剣幕にその場の全員がびっくりする。
犯人は困ったようにリボーンくんを見た。
「いや、普通に紛れてるしなんか美人だしそんなこと関係ないけどボスに手出しはさせません!?」
「落ち着け」
「これが落ち着いてられますか、って、え?」
「ビアンキは俺の愛人だ」
その横でビアンキさんと呼ばれた人が照れている。
って、えええ!!!???
「ビアンキには俺が頼んで協力して貰ったんだ」
「そうよ、まさかあんなところで殺すわけないじゃない」
ああ、これは、きっとリボーン君がマフィアっていっているのと同じくらいお遊び、なんだよね…
赤ちゃんと成人女性。
赤ちゃんと美人さんのカップルかあ…
世の中は14才の母以上の衝撃に満ちて居るんだね、
事実は小説より奇なり、なんだね…
「それより、一緒にご飯食べましょう!!」
ああ、ハルちゃんは天使だね…
「ビアンキさんが作ったんですよ!!」
思わず動きを止めてしまった私にビアンキさんはにやりと笑ってみせる。
「料理は愛情よ!」
なんか、わからないけど、すごく…
負けた。
結局、私はこの大家族に参加させて頂くことにした。
「そういえば、午後は棒倒しでしょ?」
何気なく言われた沢田君お母様の言葉に沢田君が明らかに挙動不審になるのがわかった。
「たくさん食べてね」
「う、うん…」
にこにこしている沢田君お母さん。
みんな沢田君を応援ムードだ。
「…だ、大丈夫なの?」
そんなみんなには聞こえないようにこっそり囁く。
「う、う、うん」
絶対大丈夫じゃないではないですか。
「大丈夫だよ、雲雀さんは来ないみたいだし」
「あ、当たり前だよ〜」
「あはは」
よし、ちょっと元気になったかな。
そんな昼休みの後。
「な、なな、なんで来ちゃったの!?」
私は敵陣の棒を見て愕然とした。
そこには、どんな気まぐれかはわからないが、あの並中の神様、雲雀さんが鎮座していらっしゃった。
聞きしにも過ぎて、尊くこそおはしけれ、
違う!
周りの女子も恐慌状態だ。
勝てるわけがない、と諦めムードになっている。
と、横にいたリボーン君がどこかに向かってしまう。
「リボーンくん!?」
「おしっこ〜」
「え!ええ!??私に!?」
そんな中、沢田家の子供の一人が私にしがみついた。
「ランボさんおしっこ!」
「えと、ランボくん?ちょ、今トイレに連れて行くから待ってて!!」
そんな中、急に歓声が聞こえた。
えええ!?あんなに劣勢だったのに推してる…!
そして棒倒し会場は乱戦になり…
ランボ君は私がぼんやりしている間に漏らしてしまったらしくうわああん、と泣いてしまった。
「わわ、ごめんね、ごめんね!!!」
それじゃ許されないだろうな、と思いながらポケットに偶々入っていた飴玉を口に含ませる。
リボーン君はどこにいったんだろう!
走って走って、校舎までたどり着く。
なんでこっちに来たかは、わからなかった。
ただ、混乱とは離れた場所にリボーン君はいる気がした。
ただの、勘だ。
校庭からは相変わらず歓声がする。
校舎はそれとは正反対に、しーんと静まっていて、沈黙が痛いくらいだ。
そんな中、こつこつ、という足音が聞こえる。
今日は体育祭、そんな日にそんな足音が鳴る靴を履いているのは。
「君、赤ん坊の知り合い?」
雲雀さん。
そういえば、ローファーでよくあんな不安定な棒に昇れたな…やっぱ神様だ。
「赤ん坊ですか?」
振り向くと、雲雀さんは何か記憶を探るように眉をひそめた。
「…なんとか殺人事件」
その言葉に不意に私も記憶が甦る。
そういえば、本を読みながら歩いているときにすれ違ったことがあったかもしれない。
「…よく覚えていますね」
「歩きながら本を読むくらい読書好きな人は今時珍しいからね」
で、と雲雀さんは言った。
「質問に答えてくれる?」
やばい、やばいぞ、この人…
おかしいぞ。
なんで質問に答えないくらいでこんなに殺気立つんだ!
こ、怖すぎる…
並中の神様は邪神様なのでしょうか。
「あ、赤ん坊って…」
「あのスーツ着た赤ん坊だよ」
わわ、何したのリボーンくん…
この人に会わせるのは危険な気がする…
「えと、知ってるけど、今はどこにいるかわからないです、私も探していて」
「…」
こえええええ!!
じっと睨み付けられる。
雲雀さんが口を開こうとした瞬間、
「おい」と声を掛けられる。
見れば、リボーンくんが二階から顔を出している。
「!!」
雲雀さんはそれを見ると校舎に駆けていった。
「し、死ぬかと思った…」
あれが「並中の雲雀さん」、か…「風紀委員長」か!
みんなが怖がるのがやっとわかった気がする…
そりゃ敬語だよ、敬遠するよ、疫病神扱いだよ…
あの人は怖すぎる。そういえば風紀委員も不良の集まりだったし、
やばい、怖い。なんであんな人が並中なんかでトップはって支配してるんだろう!
私も今度からはちゃんとお辞儀をしよう…
いや、その前にあの人に見つからないようにこっそり生きよう、そうしよう。
「危なかったな」
「!!!」
二階にいるはずのその人の声に驚き振り返る。
リボーン君は冷静に雲雀さんの去った方向を見ていた。
「な、なな、なんで!!」
「お前…」
リボーン君はくるりと振り返る。
「ツナを守ろうとしたろ。だから、褒美だ。」
ま、守ろうと?
そんなことしたっけ…
まさか…
『ボスに手出しはさせません!?』
まさか!?
リボーン君はにやりと笑った。
「ファミリーの自覚が出てきたみたいじゃねぇか」
「あ…」
あんな、ノリで言ったような言葉に…
嬉しいのか、なんか、よくわからない複雑な気持ちだった。
「ぴぎゃぁぁあああ」
その時、私を泣きながら追いかけてきたランボ君が私に追いついたみたいだ。
「お、追っかけてきたの!?ごめんね、ごめんね!!」
慌ててランボ君に駆け寄り (ちっちゃいこの世話をするのはきっとちっちゃいこより早く生まれた人間の義務だ)
抱き上げる。
沢田君のお母さんに替えを持ってきてるか、聞かなくちゃ。
ふと振り向くと、リボーン君はもういなかった。
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