「あ!さ〜ん!!!!」









元気な声に呼び掛けられて振り向くと、そこにはハルちゃんがいた。
いたんだけど。

「ハルちゃん!

ど、どうしたのそれ!?」

思わずそういってしまったのも仕方ないと思う。なんと、ハルちゃんは屋形船に乗っていた、
いや、屋形船になっていた、いやいや、屋形船だった?

「実は屋形船だったの!?」
「そうなんです、ハル、次の学芸会で屋形船の役になったんです!で、これ、ツナさんに見せに行くんですよ〜!」

あ、そっか、学芸会か…って、どうも、納得いかないのですが。 緑中、恐るべし… 恐ろしさに打ち震えている私には気付かず、ハルちゃんは嬉しそうににこにこしている。そうすると、私も嬉しくなってくるから不思議だ。

「でも、もしかして学校からその格好?」
「そうなんですー!早くツナさんに見せなくちゃと思って!」

出来上がった途端学校から走り出してきてしまったハルちゃんが思わず頭に浮かんだ。

「わー、それにしてもよくできてるねー」 「えっへん!」

探偵である私が騙されたくらいだ、とってもよくできている。もうまるで屋形船。でも、劇で屋形船の役ってどういう劇をやるんだろう…。
でも、そんな疑問はハルちゃんの次の言葉に完全に負けてしまった。

「ハルがつくったんですよ!」



思わずハルちゃんの肩にしがみつく。

「ほ、本当に!?」

ハルちゃんは一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐにまたにこにこと笑った。

「そうなんですー!」

ふらふらとハルちゃんから離れる。そして、思わず土下座をしてしまう。

「弟子にしてください」 「はひー!?」

ハルちゃんはわたわたとしているけど、そんなことは構っていられない、なぜなら変装こそ探偵の極意、探偵の本領!!
ああ、古来、明智探偵のその変装の技術たるや素晴らしかったものらしい、ましてや小林団長をや!! 
団長は変装の名手で女の子にまで変装してしまうらしいのだ!
ああ、小林団長、私、いつまでもお慕いしています…!!

「いいですよー!」

私がトリップしている間にハルちゃんは結論を出していたらしい。いや、ハル師匠は結論をお出し下さっていたようだ!

「でも今日はツナさんに見せに行くのでまた今度ですー!」 「お願いします、師匠!!」

思わず獄寺君もびっくりの敬礼で送ってしまう。ハルちゃんは、いや、師匠は意気揚々と歩いていってしまう。
ああ、獄寺君の気持ちが初めて分かった、師匠!師匠!師匠はとても輝いています!!その屋形船…完璧です!!
私はきっと今、獄寺君のような顔をしているに違いない、あんな風に目を輝かせているに違いない!





「おー、ー」

またしても声を掛けられ振り向く。そこにはな、なな、なんと山本君が居た。

「どした?獄寺みたいな顔して」

ああ、やっぱりしてたんだね…・

「師匠が! 師匠がいたの!」

でも興奮している私にはそんなことも関係ない。私が脈絡もなくそう言うと、それでも山本君はにっこり笑った。

「そっかー。よかったなー」

そして、な、ななんと私の頭を撫でてきた!

「や、山本君!」 「お? あー、悪い悪い、子供扱いしちゃったなー」

ああ、そんなに深い意味はないのね、でも、心臓に悪いのでできれば今度からは声を掛けてしていただきたいです。
しないでほしいということではないのです。たとえ子供扱いでもちょっと…嬉しかったです。

「山本君はどうしたの?」
「んー、暇だから公園でも行こうかなーってさ」 「そっか」

そうだね、公園ならいつも誰かしら居る気がする。

「お前も行く?」
「め、めっそうもない!!」

これ以上貴方の傍にいたら私の心臓はどうにかなってしまいます!
でも、そんな風に断った私にも山本君は朗らかに笑う。

「そっかー。んじゃ、また学校でなー」
「うん、またね」

山本君が去っていくのを見届けて、がっくりと肩を落とす。
あああ、私はちゃんと対応しているつもりなんだけど、変に見えていたらどうしよう、ああ、
でもそんな私にも親切に対応してくれるなんて山本君はなんて優しいんだろう!
私がじんわりと感動していると、足に何かがぶつかった。
ん? 足というより、これは…

恐る恐るその辺りを見ると、そこにはボスのうちにいる(らしい)男の子が居た。

「ガハハ!飴発見だもんね!」

飴? ああ、もしかしてこのあいだの体育祭であげた飴のことかな…残念ながら、今日は持っていないんだよね。

「ごめんね、今日飴持ってないんだ」

しゃがんで、目線を会わせてそう言うとその子は泣き出した。
わわ、聞いてるこっちがびっくりするぐらいだ!

「ご、ごめんね!!」

慌てて、もしかしたらどこかに入っているかもしれない飴を探す。その間男の子は待つように泣きやんでじっとこっちをみた。

「…ご、ごめんね」
「ぐぴゃああああああ」

益々泣き出してしまった男の子に私も困り果ててしまった。

「そ、そうだ!駄菓子屋さん行こうか!!」

私が提案すると子供は泣きやんで私を興味深そうに見た。

「だがしやさん?」
「そうそう、お菓子がたーくさんあるんだよ!」

駄菓子屋さんなら安くていっぱいお菓子買えるし、我ながら名案だ!!
どう?と微笑みかけると、男の子は嬉しそうに頷いた。





「だっがしやさん!だっがしやさん!!」
「危ないからあんまり走っちゃ駄目だよー」

呼び掛けると男の子はぱたぱたとこっちに走ってきた。可愛いなー。沢田君ったら、こんなに可愛い弟がいるなんていいなぁ。

「ランボさんはマフィアだから走っても転ばないもんね!!」

…こんなちっちゃい子までマフィアごっこに参加してるんだー。あ、でもリボーンちゃんと同じくらいかな?

「そっかー。ボク、ランボちゃんって言うんだね」
「ランボさんはランボさんだぞ!」

ランボ…? 愛称か何かなのかな。
でもそういえばリボーンちゃんも日本人名じゃないよね…?

「ランボさんはボヴィーノのマフィアなんだ!すごいだろ!!」
「ボ…ヴィーノ? リボーンちゃんとは違うの?」
「あいつは敵なんだぞ!」

子供の世界にも色々あるんだなあ…。
と、急に向こうからバイクが急スピードで走ってきた。

「わ、危ない、ランボちゃん、避けて!」

ぼんやりしているランボちゃんを抱きかかえて、道の端に避ける。それにしてもあんなスピードで、危ないな…
ん?学生服着てる…
いやいや、あれは!!

そのとき、バイクが横を通っていった。

……

あれは、間違いない、 雲雀さん!!

どうして中学生である彼が運転しているかとかは…気にしない方が良いんだろうな、うん。
きっと雲雀さんにはなんでもありなんだ、というか雲雀さんがルールなのだ。うん、一切私は何も見なかった。
見ませんでしたよ、雲雀さん!

「ぶーん」

ランボちゃんの声で我に返った。

「あ、ごめんごめん、いこっか」
「うん!」





駄菓子屋さんに着くと、ランボちゃんは(背が届かなくて見えなかったからか私にだっこをせがんでから)、目を輝かせた。

「うまそー!」
「ランボちゃんは駄菓子屋さん初めてなの?」

うんうん、と必死で頷きながらも目は駄菓子に夢中だ。可愛いなー!

「何が良いかな

ー」 色々ぐるぐると見てみたけど、ランボちゃんは中々目移りがして決められないみたいだ。
何が好きなのか聞いてみると、「葡萄と飴!」だそうだ。
僭越ながら私が紐の付いた葡萄味の飴と、棒のついた葡萄飴を買ってあげた。





早速帰り道でランボちゃんは飴を舐めている。

「美味しい?」

私も一緒に買った飴を舐めながら聞くと、振り向いてにこにこ笑った。

「なかなかうまいぞ!!」

また走り始めるランボちゃんを慌てて追いかけると、ランボちゃんは道に急に座ってしまった。

「ランボさん、疲れた」

えええ、今まであんなに元気に走ってたのに…!
でも、仕方ない。どうせ暇だし、おうちまで届けてあげよう。

「わかった。おうちまで連れて行ってあげるよ」

「やったー!」

なんだか…段々いいように使われている気がしてきたのです、いや、そんなことない、子供は純真なものだ!

だっこは腕が疲れるので、おんぶをしてあげることにした。背中を向けると体当たりして捕まってくる。いてて…

よいしょ、と持ち上げて沢田君の家への道を歩く。

「ランボさちゃんはいくつなの?」
「んー、」

ちょっと考えて手のひらを見せてくる。五歳かあ。

「そっかー。幼稚園とかいかないのかなー」
「ランボさんはマフィアだから幼稚園なんて行かないんだ!」
「わ、わかった…ごめん!」

わかったから暴れないで…
そんなことを話ながら沢田君の家への道を歩くと、向こうからバイクが…
ん、いや、このシチュエーションは前にも見たことがあるきが、ああ、あの学生服、間違いない…!

咄嗟に顔を壁側に向けてやり過ごそうとする。

しかし、その努力は完全に無駄だったらしく、バイクは私の横で止まった。

「やあ」

もうこうなったら覚悟を決めるしかない、私は恐る恐る振り向いた。
ああ、雲雀さん、ヘルメットも被ってないんですね、いや、いいんです、
私は貴方のすることに文句を付ける気はしないんですけど、
ちょっと道路法的なものに違反しているのではないかなと小市民は思うわけです。
そんなことを考えていても、雲雀さんが目の前にいるのは夢じゃない。
っていうか、何で呼び止められたの私、もしかして群れてるから? 群れてるから!?

「…こんにちは」

そんなことを考えていても、返事はちゃんとしなければならない、そうでなきゃどうなるかわからないらしいから。

「今日は本読んでないの」

ええ、何を言い出すんだ、この人は…貴方が怒ったんじゃないですか!

「はい」 「ふーん、今時、あんなに一生懸命本読んでる人いないから、僕は割と君を評価してるよ」

ありがたきしあわせ、という言葉が頭に浮かぶ。ああ、本当にこれは主従関係に近い。
雲雀さんは並盛中の支配者だ、そして全ての生徒の頂点なのだ!

「…ありがとうございます」
「うん。じゃあね」

そういうと雲雀さんはまたバイクで走り去っていった。

「ああ、なんか、とっても疲れた…」

背中のランボちゃんが静かなので見ると、幸せそうな顔で眠っていた。

「まったくー…幸せそうな顔しちゃって…どんな夢見てるのかな」

そう言って揺すってやると「ぶどう…」と呟いた。可愛いなー…。疲れた心がとても和みました。





沢田君の家につくと、沢田君がわたわたしながら出てきた。
その後ろから山本君や獄寺君、ハルちゃんの姿が見える。
なんだ、みんな結局沢田君ちに集まっちゃったのか。

ランボちゃんを引き渡す。

「ご、ごめん…こいつ、うざかったでしょ!」

ランボちゃんを指さしてそんなことをいう。

「ううん、とっても可愛かったよ」

そういうと沢田君は不思議そうな顔をした。

「まあ、とにかく、ありがと。こいつ、すぐどっかいくし、迷子になるからいっつも誰かに運んで貰ってるんだよ…」

そう言った沢田君が本当に苦労性の兄だったのでちょっと笑ってしまった。 それにしても…

「なんか騒がしい?」
「わー、大丈夫!大丈夫!!」

沢田君が騒ぐ横で、リボーンちゃんが現れた。

「殺人事件が発生したんだぞ」
「な、なんだって!?」

これはもしや、
私の出番ではないだろうか!

「被害者はどこ!?」
「わー、もういいからー!リボーン、余計なこというなって!!」
「わー、ここに被害者がー!!」
「モレッティさん、もういいからー!!!!」







「あいつ、十代目を犯人にする気なら許さねー!」
「あいつ、こういうことには生き生きするのなー」 「屋形船が…」

階上の三人はその光景を見ながらこんなことをいっていたとかいないとか。